横とか芝のタクシー運転手

東京在住していた大学生の時分。
私は所用で千葉県に向かうことになった。
目的の駅に向かう電車内で同じ土地へ向かうと思われる
他大学生の男女混成集団と乗り合わせた。
小旅行なのか大きな荷物をそれぞれ持ち
楽しげに会話をしていのが印象的だった。
一見するとなんてことはない光景だったのだが
このような浮かれた状態の集団は他人の迷惑を顧みなくて
危険な存在と経験上身に染みて理解していたので
集団から遠く離れて席に座っていた。
駅に着くと集団は旅館からのバスを待つため駅前で
待機している様子。
皆浮かれているので声がでかくこれからの日程も聞きたくはないのに
耳に入ってしまう。
そのバカ騒ぎを無視し用を足そうと駅近くのトイレに向かう途中声が聞こえた。
 「ここはほんと田舎だな~」
集団のまとめ役と思わしき大学生(オス)の発言。
駅周辺にはまばらだが人も居り、地元タクシーの運転手もいるなか
でかい声で禁句を発したのだ。
声のトーンや様子から悪気はないのだろうと思われたが
地元民に顰蹙を買うには十分。
私の実家も田舎なのでよく理解できるが
いくら田舎だとしか表現できない辺鄙な町でも他人に言われると
怒りを覚えるのだ。
なんだかんだ言って愛着もあるし態々よその人間に「田舎だ」と
再確認させて頂かなくても田舎なのは住んでいるこちらが
重々良く知っている。
用を足しトイレを出たら不穏な雰囲気が駅前を包んでいた。
地元民であるタクシーの運転手達が駅前の地図に集まっている
集団を睨み付けているからだ。
5、6人の中年男性が真昼間に同じ方向に苛立ちげな顔を向けているのは
不気味な光景だった。
中には腕を組んでタクシーに寄りかかりくわえタバコをしている
露骨な運転手も見受けられた。
痛い視線にも気付かず相変わらず「田舎再確認発言」で盛り上がって
いる集団から十分に距離をとり
目的地に向かうため歩き出した、すると後ろから跡を
誰かがつけてくる気配がする。
その気配は後方から左手側面に移ると声を発した。
「ここはそんなに田舎か?」
 こうなる予想はしていたので集団の一員とは思われないように
 距離をとっていたのが無駄になった。
 あ~ぁ ふぁ~ん うんざり げんなり な感じ。
歩く速度を緩めず視線だけを左に向けるとにやついた顔の
中年男性がタバコを私の顔にふきかけた。
状況と服装から私に絡んできたのはタクシーの運転手(以下カンチ)だと
すぐに察することができた。
その馬鹿面に気分を害した私は吐き気を我慢しながらも無視し歩いた。
問題 
なぜカンチは私に「ここはそんなに田舎か?」
と絡んできたのでしょう?


回答
カンチは私が「ここはほんと田舎だな~」と
地元民を苛立たせる発言をした集団の一員と勘違いしたから。
そう勘違いしたからである。
どうしても文句を言いたいが男女で盛り上がる集団
にはなかなかきっかけを作りにくい。
だから集団から離れた人間(私)を狙って絡んできたのである。
すべてはカンチの勘違いなわけだ。
私は集団の一員ではないのだから。
集団から離れるにつれてカンチの歩みは遅くなり
ついて来なくなった。
やっと私が集団とは無関係だと気付いたようだ。
私は「分かっているんだよ」とすべてを理解している感じで
カンチの顔を一瞥すると
ばつが悪そうな顔を一瞬見せた後運転手達の輪に帰っていった。
ばつが悪そうな顔をしたのに一言の謝罪もない。
体面がそうさせるのだ。
家族のため子のため仕事をしているのに
このような学生に謝るものか!と。
結局のところ自分の間違いを認めたくないのであろうが。
あとの成り行きを隠れながら確認したところ
結局地元を愛するタクシー運転手達は集団を睨むだけ睨み結局文句を言いに行くことはなかった。
大の男達が夏の旅行で浮かれているだけの男女混成集団に
びびっているわけではない。
後々、問題になるのを怖れているからである。
場所は駅前であり集客が見込める貴重な待機場所。
そこで大の男が旅行と思わしき大学生たちにイチャモンを
つける行為はたとえ相手に非があろうともしてはならない。
なぜなら会社の名に傷がつくからだ。
運転手の素行が悪いと評判になり乗客者が減少
最悪解雇される可能性もある。
自分の首を自分で絞めると同義。
社会のルールに縛られた大人達が選んだのは集団から
離れたひ弱な獲物に密かに爪を立てること。
姑息な手段を用いたうえに獲物の選定さえも間違うとは
あきれたが。
どちらにしろ運転手達の底がうかがい知れるというもの。
あ~なんて駅だったかな駅を出て進行方向右付近にトイレがある
横とか芝とか・・・まぁ思い出すだけ損だな。
勘違いで人の気分を害しあまつさえ謝罪もなしの
タクシー運転手を称えてカンチ駅としとこう。