「金を出せ」「僕、まかろんんんっーーーーーーーーーー!!」

油物のコロッケ・から揚げもろくに食べられ日が続くと舌が暴れる。
交友があり、外で食べる機会がある母や元父はそうではないらしい。
もとより歳なのか脂っこいモノをがっつり食べたくなる若者に
顕著な衝動は起きないようであるし。姉は休日になると彼氏と
お高級な「りすとらんて」で食べるので味を求める貧困者の飢えがない。
そこで、その場しのぎとはいえ考えだしたのがレモン果汁と塩の組み合わせ。
欠点、注意点は「日光に当たらず、ろくに食事もしていないひきこもり」には
初回がツライということだろう。なぜならば、ビタミン不足のひきこもりに
柑橘系のジュースやお菓子は効き過ぎるからである。
■初めてのまかろん
実体験をあげてみる。
風呂が大好きな私が二日三日入らず
下着も代えず日光を恐れ避けていた頃。
流石に腹が減って食事をとろうと思い立った。
身体に力が入らず這いつくばるように台所にたどり着く。
みれば姉の食べ残りである「まかろん」なる珍妙なお菓子が置いてある。
姉は生まれてくる家を間違えた浪費家かつ都会に憧れる乙女―田舎娘―なので
高級店のお菓子を買ってくる。
身の丈にあわないお高級なお菓子の代わりに家に
お金を入れたり魚干しの一尾でも貢いでくれれば嬉しいのだが
相手を能動的に喜ばすのが大の嫌いな姉は決してしない。
だが、その無駄遣いがあるからこそ食べ残しをありつける。
貧乏舌が高級な味に慣れる心配もしたが、食料がないので
食べられるものはあるときに食す。
なにせ狙っているのは私だけではない、母・元父もだ。
母は「私はいいのよ、いらないわ」との親としての体面を
取り繕いでいるのに旨い食べ残しのときはかっさらうように食べる。
元父は台所にあるも=自分が食べてもよいものと認識するアホだ。
以前から死ぬ前にひとつでも良いから食べてみたいと大望を抱いていた
「まかろん」。今回はとても運が良い。
■レモン味のハードラック
そそくさと自分の部屋に持ち込み、立派な外装をした紙製の箱をあける。
あるのは歯型のようなあとがついた半分のまかろん。
姉が食べ残す理由には「満腹になったからいらない」「まずいからいらない」
「飽きたからいらない」など三つほどあるが今回の食べ残し痕跡からすると
「まずいからいらない」だろうとあたりをつける。
付属の商品説明書を見るにレモン味らしい。
あまり好きではない味だ。
けれどもめったにお目にかかれない高級品。
ちまちまと味わおうかともしたが、
舌が高級菓子に慣れるとまずい。
とりあえずお腹の足しになればよいとの気持ちで半分のまかろんを口にほうりこむ。
舌にあたる表層はざらざらしていて、なにかで砂糖の層をサンドしているらしい。
高級な味は良く分からんのでさっさと腹にいれようと咀嚼する。
瞬間、強烈な刺激を舌に受けて吐き出しそうになる。
ものすごくしょっぱい梅干を食べた時のような刺激。
子供の頃にシゲキックス(UHA味覚糖のグミ)を三個いっぺんに食べた時のようだ。
口の中は飲み込む準備が整っていない中途半端な咀嚼物が広がっている。
汗が鼻を中心として頬にかけてビッと浮き出る感覚。実際出た。
姉がなにか仕掛けたかと考える。しかし私のことをニートニートと連呼して
「トニー」と発音しているのが認識がつかなくなるオツムの姉はしそうにない。
茶碗ひとつ洗うのさえもしない面倒くさがりの面からしても。
他に思い至るのは店の不良商品。
けれどこれもないだろう。都の一等地店の一個、数百円の高額商品だ。
品質には注意を向けているはず。もし異物や味が劣化していた不良品だと
したら高級な味に慣れている姉は即座にゴミ箱に捨てるはず。
母が食べる可能性があるものを置いておくはずはない。
すると、この異常な刺激に思い当たるもの。
この展開・パターン・状況からしてどうやら私は、
「日光にも当たらずにいたビタミン不足のひきこもりが久しぶりにレモンを食べたら
あまりの酸っぱさにもだえる」のワンマンショーをしていたらしい。
地デジカうざい!と連呼していた短気なテレビさんや塗料が剥げて
無機質なスチール感をかもし出すPCさまも笑っておられる。
ああああああああああああああうんっ!ありがとう!平和な世の中が一番だよ。
■やっぱもの食うってだいじよ
つまり、一昔前のひきこもりを扱った漫画や小説でたびたびみかけた
「ビタミン不足のひきこりが久しぶりにオレンジジュースやレモンかじってもだえる」
オチをしてしまったってことらしい。
これは、リストカットをする者をヒスった中年女よろしく「私は知っているのよっ」
と言うかのごとく「かまってちゃん認定」するように、ひきこもりが
日光の当たらない薄暗い部屋でいるのが当然、というような間違った認識から
でたネタなのだ。
久方ぶりの種類の刺激で舌が驚いたのかどうか知らない。
この現象の名前も知らない。
しかし、大げさだと感じた漫画のネタが本当に起きるものだとは身をもって理解した。
教訓。
1日 に 食パン 1枚たべるかどうかの不摂生かつ、日光にも当たらない
ひきこもりとってはレモン果汁やそれに類する柑橘系味のお菓子であっても
爆発的な威力を発揮する。
おぺんはいm。
ありえないほど汗が噴出したほどの酸っぱさだったので不良品の線をぬぐえず、
顔をあわせた瞬間にトニートニーと誰かを呼び続ける姉にたずねる。
返答は「外にでないからだもやしっこ」であった。
この騒動が母に伝わり、ひきこもりに関して無教養でうつ病な
ときどきわめく母の、まったく逆効果な脱ひきこもり説教をうけるはめになる。
もう、まかろんはこりごりナりよー。とほほーオチ。